2024/07/08
日記
前回は金子宏先生の租税法を基に所得の概念について簡単に紹介いたしました。
そこでこれからは法人税法における益金概念について複数回にわたり紹介させていただきます。
現行の法人税法は昭和40年に全文改正され、今に至ります。法人税法において規定されている益金の取引に関して、一般的に理解に難しいものも含まれており、今回はその概要について触れていきます。
法人税法21条において「内国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする。」とされていますが、法人税法では特に所得に対する定義はされていなく、その所得の計算方法として、法人税法22条1項において「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」と規定されています。
さらに、各事業年度の益金の額及び損金の額に算入すべき収益、費用の範囲については法人税法22条2項、3項にそれぞれ規定し、それを補完する規定として「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法22条4項)が定められている。このことからも分かるとおり、我が国の法人税法は収益、費用に関して22条2項及び3項にてその範囲は規定しているものの、その定義的規定はなく、「一般に公正妥当と認められる会計処理」(以下、公正処理基準。)に従って計算された収益及び費用の額を基礎としています。これに、法人税法22条2項、3項及びその他別段の定めにより法人税法独自の規制、制限を加え、益金及び損金の額を計算しているのです。故に、所得の算定にあたり公正処理基準に準拠するものの、企業会計上の収益の額と法人税法の益金の額は異なる額となることになります。
法人税法22条2項は「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と規定されています。ここで例示された、資産の販売、有償による資産の譲渡、有償による役務の提供については、特筆すべきものはないと思います。重要な論点は無償による資産の譲渡又は役務の提供ではないでしょうか。
企業会計上では、無償による資産の譲受けはその適正価額により受け入れることとされていますが、無償による資産の譲渡又は役務の提供は収益とは認識されていなく、昭和40年、法人税法全文改正の際に新たに規定されたものです。
では、法人税法の所得計算が22条4項に規定するとおり、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」としているのに対し、なぜ、企業会計上では収益と認識しない無償取引までも法人税法では収益と認識しなければならかったのでしょうか。
法人の無償取引について収益とすべきことは前述した昭和40年法人税法全文改正以前においても存在した解釈のようで、その解釈を明文化した確認的規定とも捉えることが可能なようです。
一方で、税負担の公平の見地から無償取引からも収益が生じることを擬制した創設的規定という考えもあるようです。
この無償取引による収益認識については以上のように理解しにくい規定とも言えるため、その課税の根拠について、同一価値移転説、実体的利益存在説、有償取引同視説、適正所得算出説、など様々な学説が存在しています。
最高裁の判例としては南西通商事件、最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決(平成6年(行ツ)第75号:更正処分取消請求事件)において、適正所得算出説を根拠とする判決も出ております。
これらの学説について次回以降の連載で紹介していき、なぜ、法人税法が無償取引にまで担税力を求めたのかを紐解いていきたいと思います。
荒井